検証したルールと前提
検証したのは、もっとも素朴な形の乖離率逆張りです。「移動平均線からの乖離率が、しきい値まで下げた銘柄を買う。一定日数後に手仕舞う」。裁量は一切入れず、この機械的なルールを21年分のデータに当てはめました。
基準ルール(フィルターなし)の成績は、取引数2,679件・勝率44.0%・PF 1.41・年率11.2%・最大ドローダウン−45.7%でした。PFは1を超えており「エッジ(優位性)はある」。しかし最大ドローダウン−45.7%は、資産が半分近くまで減る局面があったということです。ここからが検証の本番です。
実験1 ― 地合いで絞ると何が変わるか
「相場全体が良いときだけ逆張りする」と成績はどうなるのか。日経平均の移動平均線とVIX(恐怖指数)で新規買いを絞ってみました。
| フィルター | 取引数 | 勝率 | PF | 年率 | 最大DD |
|---|---|---|---|---|---|
| フィルターなし(基準) | 2,679 | 44.0% | 1.41 | 11.2% | −45.7% |
| 日経>25日線のみ | 338 | 41.7% | 1.29 | 1.0% | −8.0% |
| 日経<25日線のみ | 2,411 | 44.0% | 1.41 | 10.1% | −45.7% |
| 日経>75日線のみ | 397 | 47.1% | 1.58 | 2.2% | −8.4% |
| 日経<75日線のみ | 2,322 | 43.6% | 1.39 | 9.3% | −45.7% |
| VIX<25のみ | 1,383 | 43.7% | 1.38 | 5.4% | −29.8% |
| VIX≧25のみ | 1,387 | 43.0% | 1.35 | 5.1% | −39.9% |
年率は簡易モデルによる参考値。参考:同期間の日経平均の買い持ち(Buy&Hold)は+525.8%。
地合いフィルターが変えるのは、利益よりも「苦しさ」でした。日経平均が75日線より上のときだけ買うと、PFは1.41→1.58に改善し、最大ドローダウンは−45.7%→−8.4%へ劇的に浅くなります。引き換えに取引数は約7分の1に減り、年率も下がる。「たくさん取るが、深く沈む」か「機会は減るが、浅い傷で済む」か ― フィルターとはこのトレードオフを選ぶ行為です。
実験2 ― 「どこまで下げたら買うか」は時代で動く
乖離率のしきい値を−8%から−24%まで動かし、さらに期間を3つの時代に分けて成績を見ました。まず、直近の時代(2018〜2026年)のPFです。
そして、時代ごとに「もっとも成績の良かったしきい値」を並べると、はっきりした移動が見えます。
| 時代 | 最適しきい値 | PF | 取引数 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|
| 2005〜2010 | −24% | 1.53 | 332 | 45.2% |
| 2011〜2017 | −20% | 1.59 | 217 | 47.0% |
| 2018〜2026 | −18% | 1.76 | 471 | 49.0% |
取引数30件以上のしきい値のうちPF最大のもの。セクター別の最適しきい値(業種で大きく異なります)は配布CSVに全数収録。
どの時代でも共通するのは「深く待つほど、1回あたりの優位性は濃くなる」こと。浅い下げ(−8%)で飛びつくとPF1.03〜1.19の「ほぼトントン」ですが、−18%以下まで待つとPFは1.5〜1.76に達します。一方で、最適なしきい値そのものは−24% → −20% → −18%と時代とともに移動しており、「一度決めたパラメータが永遠に最適」ではないことも、データははっきり示しました。
実験3 ― BNFはなぜ大型株で逆張りをやめたのか
BNF氏は後年、大型株での逆張りを縮小したと言われます。「大型株では優位性(エッジ)が消えた」のか、それとも「そもそもチャンスが来なくなった」のか。銘柄を売買代金でグループ分けして切り分けました。
| グループ | 銘柄数 | シグナル頻度(回/銘柄・年) | 取引数 | 勝率 | PF |
|---|---|---|---|---|---|
| 大型(売買代金上位25%) | 32 | 2.39 | 872 | 44.7% | 1.49 |
| 中間(中位50%) | 64 | 2.55 | 1,574 | 44.9% | 1.46 |
| 中小型(下位25%) | 32 | 3.78 | 1,374 | 45.1% | 1.49 |
意外なことに、起きてしまえば成績はほぼ同じ(PF 1.46〜1.49、勝率もほぼ横並び)でした。違うのは頻度です。深い乖離は、大型株では年2.39回しか起きないのに、中小型では3.78回起きる。つまり大型株で消えたのは「エッジ」ではなく「機会」。資金が大きくなるほど中小型では建てられなくなり、機会の少ない大型に縛られる ― BNF氏の転換は、データと整合的でした。
実験4 ― 暴落のとき、逆張りはどうなるか
逆張りが一番怖いのは暴落です。「落ちるナイフ」を掴んだとき何が起きたのか、3つの暴落局面で保有日数別に検証しました。まず、翌日に手仕舞う「保有1日」のPFを比べます。
| 局面 | 保有 | 取引数 | 勝率 | PF | 平均損益 |
|---|---|---|---|---|---|
| 全期間 | 1日 | 4,675 | 51.7% | 1.48 | +0.70% |
| 全期間 | 10日 | 2,679 | 44.0% | 1.41 | +0.94% |
| リーマン(2008/9〜2009/3) | 1日 | 888 | 42.9% | 1.07 | +0.14% |
| リーマン(2008/9〜2009/3) | 10日 | 475 | 31.2% | 0.83 | −0.49% |
| コロナ(2020/2〜2020/5) | 1日 | 238 | 39.9% | 0.97 | −0.07% |
| コロナ(2020/2〜2020/5) | 10日 | 174 | 34.5% | 0.98 | −0.06% |
| 2024年8月急落(2024/7〜9) | 1日 | 143 | 61.5% | 2.33 | +1.54% |
| 2024年8月急落(2024/7〜9) | 10日 | 81 | 55.6% | 2.30 | +2.43% |
保有2・3・5日を含む全データは配布CSVに収録。
「暴落」とひとくくりにはできませんでした。経済そのものが壊れていくリーマン型の下落では、逆張りは長く持つほど損失(保有10日でPF0.83)。一方、需給ショックで急落して急回復した2024年8月型では、逆張りが最も輝きました(PF2.3超・勝率6割超)。また全期間で見ると、勝率が最も高いのは「保有1日」=逆張りの優位性は最初の1日に最も濃く、長く持つほど薄まることも分かります。
結論 ― 4つの答え
- エッジはある。素朴な乖離率逆張りでもPF1.41。21年経っても優位性は消えていない。
- ただし素のままでは苦しい。最大ドローダウン−45.7%。地合いフィルターで「浅い傷」と引き換えに機会を絞るのが現実解。
- パラメータは動く。最適なしきい値は時代で−24%→−18%へ移動。定期的な点検が前提。
- 暴落の「質」を見る。リーマン型では踏み込まない、需給ショック型では短期で取る ― 同じ逆張りでも扱いが真逆になる。
この検証の全過程 ― ルールの組み立てから、うまくいかなかった試行、セクター別・連れ高戦略の検証まで ― は、書籍『BNF流 短期逆張り投資の全検証』にまとめています。
検証の前提と限界
①対象は選抜済みの128銘柄ユニバースであり、市場全体ではありません。②上場廃止銘柄を含まないため、サバイバーシップバイアス(生き残った銘柄だけを見る偏り)があります。③2005年頃の古いデータは品質が落ちる場合があります。④売買コストは往復0.2%固定の簡易モデルで、滑り・流動性は簡略化しています。⑤すべて過去データの観察であり、将来の成果を保証しません。